語り部通信

連載コラム『病院はチャペルである』――遠藤周作の祈り――

はじめに

 

遠藤周作さんは、つねづね「病院はチャペルである」と言っておられました。
日ごろ、日本人は、愛する家族のため、会社の仕事のために、忙しくも楽しい「自分の生活」をすごすうちに、貴重な「自分の人生」を急いで駆け抜けていく。ある日、突然の病気で入院することになって、途中でちょっと立ち止まる。会社の仕事も休み、家族の団欒とも離れて、そこで初めて「自分の人生」を振り返るチャンスが訪れる、というのです。
『中央公論』1982年7月号に寄稿した『日本の「良医」に訴える』には、遠藤さんの祈りにも似た言葉、「病院はチャペルである」について、次のように書かれています

私はなぜか病院が好きだ。夜、一人で病院のそばに行き、病室の窓にともる灯をじっとみつめていることがよくある。灯のうるむ病室のなかで、一人一人が病に苦しみ、恢復に悦んでいる。病室のなかで人々が日常生活では考えられなかった人生や死の不安と向きあっている。日本人の多くが、自分の死のことをはじめて考え、自分の人生のことをはじめて考えるのは病院なのではないか。もしそうなら、病院こそ新しい教会であり本当の人間関係が考えられねばならぬ場所なのだろう。

(『日本の「良医」に訴える』137ページ)

さて、遠藤さんが1982(昭和57)年4月、讀賣新聞夕刊に寄稿したエッセイ「患者からのささやかな願い」から始まった「心あたたかな(病院)医療」キャンペーンは、来年(2017年)4月でちょうど35年目に入ります。そして、やはり私たち遠藤ボランティアグループもまた、結成35周年という大きな節目の年を迎えます。

そこで、遠藤さんが35年前に、新聞や雑誌での積極的な寄稿と対談、医師や看護師を対象とした講演活動など、あらゆるメディアを通じて発信しつづけた「心あたたかな医療」への期待といくつかの提案について、いま改めてその答えとなる成果を求めて、あるいは未解決の課題を検証しながら、今夏からさまざまな分野への取材を開始しました。

今月は、難病に苦しむ子どもの患者が入院する病院の近くに家族が安心して泊まれる滞在施設を建設し、安価な費用で提供している公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンの取材レポートをお届けします。